『当院における急性感音難聴についての検討』
              第54回 川内市医師会医学会  平成13年11月14日














































当院における急性感音難聴についての検討
                    せんだい耳鼻咽喉科  内薗明裕
○はじめに
 突然発症する神経性難聴の中には、突発性難聴、急性低音障害型感音難聴、メニエール病、音響外傷のほか、聴神経腫瘍、ムンプス難聴、心因性難聴、などがある。
 このうちで、突発性難聴は、突然に発症する神経性(感音性)難聴で、通常は高度の難聴を呈するが、その原因は特定できない疾患群である。しかしながら、神経性(感音性)難聴であるにもかかわらず、早期の治療により、回復の可能性が高いために重要な疾患群である。場合によっては、めまいや耳鳴を伴うこともあるが、聴力が改善と悪化の反復を示すことはないとされており、第8脳神経意外の神経症状を示すことはない。
 一方、急性感音難聴のうちで、頻度の高い、低音障害型は、最近報告も多く、一つの疾患概念として定着しつつある。
 今回、私は、平成10年4月から同13年10月までに当院を受診した、急性感音難聴のうちで、初診時に原因が特定できなかった症例について検討したので報告する。
○検討症例の概要
 この期間に受診した急性発症の感音性難聴患者は、計82例であった。女性46例、男性36例であり、年齢分布は14才から80才までに渡り、平均年齢は44才であった。(図1)
 男女ともに、40歳代にピークがあった。
 82例の診断を示したのが図2である。低音部のみが障害される、急性低音障害型感音難聴の診断は、阿部らの報告(1992年)に基づいて、250Hz〜4000Hz間での平均聴力レベルが40dBより小さく、かつ、低音3周波数領域の聴力レベルの合計が70dB以上で、高音3周波数領域の平均聴力レベルの合計が60dB以下のものを選択した。
 また、中等度以上の突発性難聴は、250〜4000Hz間の平均聴力が40dB以上のものとし、また、軽症突発性難聴はそれ以下のものとした。
 そのように分類すると、急性低音障害型感音難聴が35例(43%)と最も多く、ついで中等度以上の突発性難聴が25例(30%)、軽症突発性難聴が22例(27%)であった。この低音障害型の中で、再三に渡り、再発し、めまいを伴うようになり、最終的にメニエール病と診断されたものが5例含まれていた。
 図3は、重症度分類を表している。平均聴力40デシベル以下の軽症例が56例(68%)と 最も多く、ついで、40dB-60dBの中等症20例(24%)、それ以上の重症例6例(7%)であった。 図4は、年次推移を示しているが、特に大きな変動はなかった。
 図5は、受診までの期間について示している。82例中、70%を占める58例が発症から1週間以内に受診していた。更に全体の95%が1ヶ月以内に受診していた。
 図6は、受診時の主訴について示している。耳閉感が最も多く、39例(47%)、ついで難聴が32例(39%)、耳鳴が10例(12%)、めまい1例であった。
 図7は、月別受診患者数を示している。これまでの結果では、9月に患者が多いという傾向が見られた。
 図8は、聴力像の分類を示している。低音障害型が42例と最も多く、ついで、山型12例、高音障害型10例、谷型9例、水平型8例の順であった。
○治療法
 図9は、基本的な治療方針を示している。外来でおこなう以上、簡便な内服治療が主となるが、中等症以上の症例では、原則として入院を勧め、本人が承諾すれば、後方病院への紹介をおこなっている。第1次治療法は、原則としてステロイド漸減療法とビタミンB12製剤、ATP製剤漢方薬等の内服をおこない、数日以内に改善がない場合には、2次治療として高圧酸素療法を施行している。ステロイドの初期投与量は、軽症(平均聴力が40dB以内の突発性難聴または、低音型の軽症例)ではプレドニゾロン5mg 錠を用い、初期容量を20mg、中等症30mg、重症40mgと3種類に分け、4日毎に、10mgずつの漸減をおこなった。中等症以上では、1次治療の段階から、高圧酸素療法をすすめ、本人が承諾すれば積極的に併用するようにしている。
 また、1次治療の開始後、1週間以内に再度の聴力検査をおこない、改善が見られなければ、中等症以上では、高圧酸素療法を追加するようにした。  
 図10は、1次治療法の施行状況を示している。また、図11は、2次治療の施行状況である。軽快したため、または、それ以外の理由で、2次治療を追加しなかったのは、52例(63%)であった。
○症例報告
 症例は77才男性で、主訴は、右の難聴であった。
 現病歴:平成13年10月9日の朝、起床時に右の難聴に気づいた。もともと、左が聞こえにくかったこともあり、良く聞こえていたはずの右の耳まで、聞こえなくなっていたために、その日のうちに受診した。
 図12左が初診時の聴力像である。平均聴力86dBと高度の難聴を呈していた。安静のために入院を勧めたが、仕事の都合により、入院を拒否されたので、外来にて治療することとし、ステロイド漸減療法(プレドニゾロン40mgから)を開始すると同時に、川内市医師会立市民病院へ紹介して高圧酸素療法を依頼した。10回の高圧酸素療法とステロイド漸減療法をおこなった。その結果、図12右のごとくほぼ満足できるレベルまで改善が診られ、治癒と判断した。高圧酸素治療中、滲出性中耳炎の併発が見られたが、鼓膜切開は施行することなく保存的な治療で改善した。
○予後
 予後についてまとめたのが図13である。82例中、予後判定ができなかったものが19例(23%)存在した。これらの内訳は、初診以後の受診がなかったもの8例、3回目以降受診しなかったものが2例。他院へ紹介した後、以後の経過が不明になっているものが8例、セカンドオピニオンを求めて来院し、そのまま前医に返した例が1例であった。
 これらの予後判定不能例を除いた63例で、発症前のレベルまでにほぼ改善し、全治と判断したものが32例/63例(50.1%)、全治ではないが軽快したものが22例/63例(34.9%)、不変8例/63例(12.7%) 悪化1例/63例(1.5%)であった。
 図14は、聴力像と予後について示している。低音障害型では全治・軽快をあわせると42例中32例(76%)の改善率を示した。また、図15は、重症度別の予後を示している。軽症ほど予後が良好であることがわかる。
○考案
 急性感音難聴は、一般外来において比較的多く見られる疾患群である。このうち、厚生省の診断基準を満たす突発性難聴の他にも様々な疾患が包含されている。当院は、1994年12月に開院して6年を経過したが、最近の3年間に経験した急性感音難聴のうち、現病歴や検査結果等から明らかな原因が特定できない症例について検討してみた。
 総症例82例中、最も多かったのは、1994年に阿部らが提唱した、急性低音障害型感音難聴で、全体の4割強を占めた。また、中等症以上すなわち250Hzから4000Hz間の平均聴力が40dB以上の突発性難聴と診断されたものが25例(30%)であった。性別では、女性の方が46例と多かったが、当院を受診する患者総数の男女比が女性の方が高いことを勘案すると性差は無いものと考えた。年代別には男女ともに40才代に男女ともピークがあり、社会的にも家庭内でも責任ある世代であり、睡眠不足やストレスの影響が考慮された。治療法の選択は、軽症例は外来にて内服治療をおこなった。処方内容はステロイド剤の漸減療法(プレドニゾロン20mgから)とビタミン剤、ATP製剤、漢方製剤 (六味丸、五苓散など)であった。中等症以上の症例に対しては、入院を勧めるが承諾しない場合は、当院にて外来治療をおこなった。この場合、ステロイドの初期量はプレドニゾロン30mgまたは40mgとし、積極的に高圧酸素療法を併用するように指導した。経過を観察すると、かなり十分な説明をおこなって治療を開始したにもかかわらず、初診時以降、来院されなかった症例が8例存在した。また、2回目に来院し、警戒が見られた後、3回目胃受診しなかった症例が2例存在した。おそらくこの2例は軽快ないし、治癒したものと推定される。また、中等症以上で後方病院へ紹介した後、経過が不明となってる症例も8例と多く、今後の対応改善が必要と考えられた。
 予後の判定が可能であった63例では、約半数の32例が全治と判断された。 また、22例が軽快したと判定された。全治と軽快をあわせると54例で、63例中85.7%に相当した。また、 82例中で、再発したのは低音障害型に9例認められ、このうち5例は反復し、めまいをともなうこともあり、最終的にメニエール病と判断された。
 予後不良例では、いくつかの合併症(腎機能障害、糖尿病)があったり、また、治療中に騒音仕事に従事したりして安静が守られなかったりするケースが目立った。
○まとめ
 @平成10年4月から13年10月までに、当院で経験した急性感音難聴82例について検討した。
 A急性低音障害型感音難聴(35例)中等度以上の突発性難聴(25例)軽度の突発性難聴(22例)であった。
 B低音障害型、軽度突発性難聴症例、及び、中等症以上の突発性難聴の一部を外来にて治療した。
 C治療法は、主としてステロイド剤の漸減療法、ビタミン剤、ATP製剤、漢方薬の内服治療であり、重症度に応じて高圧酸素療法を併用した。
 D外来治療をおこない、予後判定が可能であった63例では、全治32例、軽快22例で、軽快以上の成績を示した症例の割合は54例/63例(85.7%)であった。
 E追跡不能例が19例存在した。
 F難聴の重症度、合併症、安静の不履行などが予後不良因子と考えられた。
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